【特集】江津『未来人材』ものづくり研究発表会

事業概要
開催日時/2018年2月3日(土)13:40~15:50(受付13:10より)
開催場所/江津市総合市民センター大ホール(ミルキーウェイホール)
主催者/江津“未来人材”ものづくり研究発表会実行委員会
構成団体/島根県立江津工業高校、島根職業能力開発短期大学校、江津市、島根県西部県民センター、島根職業技術教育振興会

革新を、確信する
常識を超えていく、新しい発想の発見

電話が一家に1台の時代から、一人が1つ、スマートフォンを持つ時代に変わった。電話がパソコン機能を持ち、ポケットに入るなど誰が予測しただろう。そしていま、人工知能を搭載した電気自動車が、自動制御で走り出そうとしている。わずかな時間で劇的な変化が起きる時代に、私たちは生きている。夢は、行動しなければどこまで行っても夢でしかない。「目の前の常識を疑え」という視点を持った覚醒者たちが、新時代のイノベーションを起こそうとしている。

未来人材たちの視点

自分は何ができるか。人のために、社会のために、未来のために。そんなイノベーションのカケラを胸に秘めた学生たちが結集して、挑戦の物語が発表された。会場は、江津市総合市民センター、通称「ミルキーウェイホール」の大ホールだった。参加したのは、石見地域における主要な産業人材輩出校である江津工業高校(島根県立江津工業高校)と、島根県唯一の工科系短期大学であるポリテクカレッジ島根(島根職業能力開発短期大学校)の学生たちである。

それぞれ、ものづくりの視点、改良の視点、感動の視点、可能性の視点、歴史に命を吹き込む視点、そして街を丸ごと改造する視点など、日頃の研究成果を広く発表した。これは、次世代を担う若者たちの挑戦であり、彼らに期待する企業にとっては確かな希望であり、江津市及び島根県の未来にとっては、“未来人材”という想像以上の可能性を抱かせる発表会となった。

【特集】江津『未来人材』ものづくり研究発表会

【ものづくりの視点】 発表者① ゼロハンカーの製作

江津工業高等学校 機械科3年
発表者:桐田明樹、正司宏太、谷竜馬、畑岡聖人、鳥芎尾一磨、安田竜郎

先輩から受け継いだ50ccエンジンのバギーカーをチーム全員で手を加え改造したというのがこのチーム。

一見シンプルで地味に見えるが、実際に手を入れてみると複雑な構造で、そこに強度の問題、車両バランスの問題、溶接の不備、燃料タンクの固定など、さまざま改善点を発見する。

それらひとつひとつを、専門技術を持った企業に学び、アドバイスを受けることで解決することができた。

確かな溶接技術が、車両の強度やバランスの維持に生かされた。

手を加える、試してみる、問題点を発見する、再び修正し、試してみる。この繰り返しの中で、技術や視点が磨かれる。

ここで経験したものづくりの基礎は、確実に彼らを次のステップにつないで行くだろう。

ゼロハンカーの製作
ゼロハンカーの製作
ゼロハンカーの製作

【改良の視点】 発表者② 射出成型金型制作

ポリテクカレッジ島根 生産技術科2年
発表者:品川大和、松原幹

洗面器や歯ブラシなど日用品をはじめ、テレビや携帯電話の部品、自動車のバンパーや車内のさまざまな部分にプラスチック製品は使われている。

このプラスチック製品の多くは専用の金型に樹脂を射出して形成することになるが、精度と品質の高い製品をつくるには、さまざまな注意と工夫が必要となる。

金型は使い続けることで摩耗などによる品質低下を招く。
例えば、小さなとげのようなバリが発生したり、ジェッティングと呼ばれる、成形品の表面にくねくねと蛇行した模様が現れる外観不良など。

これらを改善するためには、金型の基本構造を知り、不良の原因を突き止め、金型の材質の変更や温度管理、形状の変更などやるべきことは多い。

また、そのために使用する機器の選択も必要となる。こうしたことで得られた失敗と成功の醍醐味は、新たな経験となって、ものづくりの現場で応用され、生かされていく。

射出成型金型制作
射出成型金型制作
射出成型金型制作

【感動の視点】 発表者③ 電気で地域とつながろう!

江津工業高等学校 総合電気科3年
発表者:勝田航平、森野原大貴、島田ひかる、藤田咲良、河上陸、谷本巧磨

学校の授業や実習で学んだことを、社会でどのように生かせばいいのかわからなかった。

しかし、「人の役に立つことをしたい」というテーマで、地域を見渡してみると、さまざまな発見があった。

それが、街を活性化させる巨大なデジタル時計の製作と設置や、プログラム通りに動かすことができた自立型二足歩行ロボットの製作、高齢者住宅や公民館などで困っている人を助ける電ボラ52(電気で地域を元気にしたい!ボランティアねっと江津)によるボランティア活動、江津をもっと明るくするパレットごうつ電光飾(ペットボトルにLED電球を組み込んだイルミネーションの製作)という地域参加活動につながった。

自分たちの知識と技術と経験と、街の人々とのコラボレーションが生み出した「人の役に立つ」という成果につながった。

教室の中では学べない、人の中でこそ生かされる技術があることを、彼らは確かに発見した。

電気で地域とつながろう!
電気で地域とつながろう!
電気で地域とつながろう!

【可能性の視点】 発表者④ LEDイルミネーション制御システムの制作

ポリテクカレッジ島根 電子情報技術科2年
発表者:桐木怜司、間久保有馬

毎年12月に江津市庁舎をイルミネーションで装飾している。

今回もまた、江津市建設業協会様と共同でオリジナルイルミネーションを製作することになった。製作は住居環境科とも共同で行った。

IT業界の即戦力を目指し、日頃からソフトウェアや電子回路などについて学んだことが生かされるチャンス。

設置場所は江津市役所横の丸子山公園。昨年末12月1日から新年を迎えた1月10日まで、人々の笑顔を照らした。

具体的には、竹筒にLEDを仕込み、LED点滅制御をノートパソコンと無線ラン機能で行う。また、点滅パターンを複数個用意して、焦電型赤外線(人感)センサモジュールと点滅アルゴリズムで点滅させた。

また、江津市独自の可能性を後押しするスローガン「GO▶GOTSU」の文字制作も行い、昨年11月に実施。本年1月17日~19日の3日間は、「LOVE」という文字も追加し、ポリテクカレッジ島根に再設置した。

好評をいただいたが、反省点もいくつかあった。今後もこの経験と活動を後輩たちに引き継いでもらい、江津市の風物詩に成長していったらと願っている。

LEDイルミネーション制御システムの制作
LEDイルミネーション制御システムの制作
LEDイルミネーション制御システムの制作

【歴史に命を吹き込む視点】 発表者⑤ 江津本町の活性化に関する古民家再生への調査研究

江津工業高等学校 建築科3年
発表者:雲石舜、田村瑠都、山田将椰、和田莉緒

江戸時代、北前船の寄港地としてにぎわい、天領米の積出港であり、日本三大瓦に数えられた石州瓦の産地でもあった江津本町。

しかし今では、都市機能の移転、建築物の老朽化などで、当時の繁栄ぶりを感じることが難しくなった。

そこで「住民すべてが江津本町を語れる街へ」という住民の願いを目標に、実際に本町を歩き、人々の話を聞くことで「本町の活性化に建築を使いたい」というプロジェクト案が生まれた。

具体的には以下の4つの計画が選定された。

①駐車場の移設による景観回復計画
②新ポンプ庫移設計画の提案
③旧江津市郵便局の活用計画
④古民家の耐震診断。

それぞれに設計・計画の図面が提示され、資金計画から活用提案も出された。

現場に触れ、夢で終わらせず、実現可能性を追求したことで、具体的な問題点も発見でき、細部にわたって今後に生かせる勉強になった。

江津本町の活性化に関する古民家再生への調査研究江津本町の活性化に関する古民家再生への調査研究
江津本町の活性化に関する古民家再生への調査研究

【街を丸ごと改造する視点】 発表者⑥ 江津駅前プロジェクト~新たな江津のデザインを~

ポリテクカレッジ島根 住居環境科2年
発表者:島﨑希世

現在、再開発計画がある通称「軍艦ビル」と呼ばれる江津駅前ビル。

老朽化が進んでいるため、江津駅前周辺のソーシャルデザインを踏まえた、地域のラウンドマークとなる新しい商業施設を提案したい。

もちろん、駅前や商店街等のデザインを同時に考え、江津の独自素材を取り入れた江津らしさも提案に含めたい。

提案にあたって、事前に市役所関係者をはじめ、コミュニティや専門家にヒヤリングを実施。

また、アンケート調査により、さまざまな課題と要望を掘り起こした。

中でも、今後の江津を盛り上げる世代である若者を対象とした、利便性や賑わいなどの創出が求められることを気づかされた。ここに江津らしさを加えることで、新軍艦ビルとも呼べる新駅前ビルを提案。

周辺環境と調和し、さまざまなニーズを取り込んだ、人と物が交わり、つながり、発展していく江津市の未来を導く一助となれる建物提案となった。

江津駅前プロジェクト~新たな江津のデザインを~
江津駅前プロジェクト~新たな江津のデザインを~
江津駅前プロジェクト~新たな江津のデザインを~

未来人材たちの視世界は
江津発のイノベーションを待っている

ものづくりのスタンスから、街の再活性化への提案まで、それぞれの経験と発見が発表された。「出来ることと、できないことがわかると、次につながる」「いろいろな人の夢や願いをカタチにすることは、誰かの幸せにつながる」「江津で頑張れることが、いっぱいある」など、初めての開催ながら、地元企業人による講評にも大きな開催価値を見出すことができた。また、参加した学生たちの真剣なまなざしは、江津の今後にとって大きな一歩となったようだ。

私たちは現状をあきらめたりする必要はない。「新しい酒は、新しい革袋に盛れ」ということわざがあるように、新しい発想は、新しい表現でなされる。たった一つのアイデアが、あっという間に世界を席巻する時代。世界70億人がそれぞれに見る「あったらいいな」の夢が、私たちの明日を動かしている。

夢をあきらめない“未来人材”たちが描くイノベーションを、世界は待っている。またこのような機会に、さらに多くの人の参加が望めたら、明日はもっと面白くなると思う。未来を動かすイノベーションの江津に向けた学生たちの姿を、市民も企業人も応援するだろう。

主催者側は、今後は発表会に加え、展示などのイベントも開催し、企業との合同研究も視野に入れた、一般人も楽しめる江津ならではの特徴のあるイベントに育てていければと願っている。